大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)4号 判決

原告 小倉市

被告 土地調整委員会

一、主  文

被告が申請人原告、処分庁福岡通商産業局長、参加人豊国セメント株式会社間の二七土調委第二三一号鉱業出願許可取消の裁定申請事件について、昭和二十七年十二月二十六日、なした裁定を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を、

尚、予備的申立として、

前項の裁定を左の通り変更する。

福岡通商産業局長が昭和二十七年六月二十日付をもつて、豊国セメント株式会社に対し、福岡県小倉市内において、面積一万二百十四アールの石灰試堀権設定の出願を許可(昭和二十七年六月二十八日、福岡県試堀権登録第九〇九六号をもつて登録されている)した処分は、左記面積一千四百九十五アールの地域を除き、その他の地域の出願許可を取消す。

記(処分の取消を求めない地域)

別紙図面中北緯三三度四六分三八秒六六四六東経一三〇度五四分四二秒二四九〇に位置する貫山基準三角点を基準として磁針方位に対する、方位角一九四度四〇分の方向九〇一米の地点Aを起点とし、すべて方位角をもつて逐次B、C、D、E、Fの地点を次の通り測定してこれを結び、Aを終点とした地域である。

B、Aから方位角九九度四〇分の方向一〇〇米の地点

C、Bから方位角五〇度の方向   二五六米の地点

D、Cから方位角三五二度の方向  一六〇米の地点

E、Dから方位角三一九度二〇分の方向二八〇米の地点

F、Eから方位角二三二度三〇分の方向三五〇米の地点

との判決を求め、

その請求原因として、末尾添附の訴状のとおり陳述した(証拠省略)。

被告指定代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、

答弁として、末尾添附の答弁書のとおり陳述した(証拠省略)。

三、理  由

末尾添附の訴状請求の原因の第一(前文)、第二(原告の主張)、第三(裁定の理由)記載の事実は、当事者間に争がない。

よつて、先ず、原告が本件石灰石試堀権設定の出願許可の取消を求める為め、被告に対して主張した申請理由の第一点「水源の破壊」について判断する。

即ち、原告が裁定申請の第一の理由として、「裁定申請に於ける参加人豊国セメント株式会社(以下単に参加人と呼ぶ)が、鉱区内の石灰石掘採を行うことに因り、平尾台上の住民の飲料その他の用に供する唯一の水源が破壊せられ、之が為め之等住民の生活は全く危殆に陥しいれられるものである。この憂慮せられる結果が発生する場合には、台上住民の水源利用の不便はもとより、保健衛生上甚だしい害が起る。場合によつては、生活不能の結果さえも招来するかも知れない」と主張したのに対し、

被告は、

本件鉱区内にある水源が、現在平尾台部落民の唯一の飲料用水供給源であることは、現地調査の結果これを認め得られるが「現在使用中の平尾水源地を中心として半径三〇〇米以内の掘採を行わない限り、即ち同水源地の北にあたり、集水面積内にある『岩山』の南半分を破壊し去らない限り同水源地に影響を与えると思われない。」との鑑定人坂本峻雄の鑑定、資料丙第四号(平尾台開発に関する福岡県調査団意見書)中「三、開発団の飲料水源について―現在の水源が石灰石掘採によつて、枯渇するかどうかについては断定できないが、恐らく影響はないではあるまいか」との立岩巖の意見、資料丙第十一号(平尾台採掘計画及工場予定地図)による掘採計画及びこれに対する鉱業監督上の掘採の制限等の、行政措置等を彼此考慮するときは、本水源に及ぼす影響を防止し又は、除去し得るものと認められる。

更に「平尾部落の現在使用中の水源が、万一枯渇した時に同部落に対する給水は、恒久的な自然流下によることが望ましい、その候補地として次の三点を挙げることが出来る。

イ、広谷上流(一〇〇トン一日)標高五〇〇米強、花崗岩真砂より浸出

ロ、葭ケ谷(一五〇トン一日)標高四五〇米、雲母片岩友表土

ハ、大穴上流(一、〇〇〇トン一日)標高四五〇米花崗岩真砂及石灰洞

イは上記のように湧水量その他について更に詳細の調査を要する。

ロは千仏洞の水源の一部と認められ、これに影響する恐れがある。

ハは湧水量及標高の点で充分である。これを「鞍外しのゴード」(豊国社鉱区内の景勝保留地、標高四〇〇米強)に向い、延長約一、〇〇〇米の隧道によつて直結し、水路を設ける時は自然流下によつて豊富な水量が得られる。大穴の周囲は雑木の密林で、水源のかん養に適し、且隧道水路を東部の花崗岩との接触部附近を経由せしむれば、小穴の下その他で新たな水源に出あう可能性もあるであろう。」との右鑑定人の鑑定に徴するときは、万一枯渇等の事態が発生するとしても、これに代るべき水源が他に求められ、その給水施設もまた、経済上技術上可能であると考えられる。

以上の事情を綜合考覈するときは、今直ちにこれをとりあげて、鉱業法第三十五条に規定する保健衛生上害があり、公共の福祉に反するものと断ずることはできないと判断して、原告の右主張を排斥したことは、冒頭説示のとおり、当事者間に争がない。

よつて、原告の主張する水源が、台上に於ては、住民の為めの唯一の用水供給源であり、この唯一の用水供給源に異変を来たし、その水源が枯渇するようなことになれば、他に用水供給源を得られない限り、住民の生活が危殆に陥しいれられ、保健衛生上害があることは、被告に於ても認めているものと解されるところ、被告の前記認定に供した資料の内、鑑定人坂本峻雄の鑑定(成立に争のない乙第一号証の一、二)は、「現在使用中の平尾水源地を中心として半径三〇〇米以内の掘採を行わない限り、即ち、同水源地の北にあたり、集水面積内にある『岩山』の南半分を破壊し去らない限り、同水源地に影響を与えると思われない」と云うのであり、又資料丙第四号平尾台開発に関する福岡県調査団意見書(成立に争のない乙第二号証)中の立岩巖の意見は、「現在の水源が、石灰石掘採によつて、枯渇するかどうかについては断定できないが、恐らく影響はないではあるまいか」と云うのである。

そこで、鑑定人坂本峻雄の鑑定について考えてみると、その鑑定は、「集水面積内にある岩山の南半分を破壊し去らない限り」との仮定の下になされたものであり、若し、参加人が掘採を盛んにし、岩山の南半分をも掘り尽すが如きことをしたならば、当然影響があり、その結果水源が枯渇する可能性のあることは、同鑑定に於て認められているものであると云わなければならない。

又、立岩巖の前示意見は、確信のある断定的な結論を示したものとは解し難く、或程度の予想を示したものと解されるから、被告の前記認定に供した資料としては、甚だしく薄弱なものと考えられる。

そして、水源の枯渇するが如き事態は、その結果影響するところは極めて甚大であり、一旦この事態を招来した暁に於ては、之が防止は不可能であることは明白と考えられる。

尚、被告は、本件裁定に於て、参加人の事業実施計画書の記載事実により、参加人が他に水源を開発して、現在の唯一の水源に代うる施設を施せば、寧ろこの方が住民の為めには、現在の水源利用よりは便利であり、「恒久的な自然流下となつて望ましいことではないか。その候補地としては、(イ)、(ロ)、(ハ)の場合が考えられるが、(ハ)は湧出量及び標高の点で十分である」と述べているが、このような給水施設は、これを設けるについて、経済上並びに技術上、相当の困難を伴うことは、予想に難くなく、果して計画どおりの給水量を得られるか否かは、単に事業実施計画書の案だけによつて、直ちに断定を下すことは、些か早計に失する嫌があり、確実に計画どおりの給水を得る見込の確立するのは、施設完成の上でなければ必ずしも明白であるとは云い難い。そして、本件に顕れた資料によれば、元より計画案により、将来或程度の給水量を得る可能性は期待出来ないとは云い難いが、本件水源に代わる十分な給水を得ることが、しかく確実に、期待出来るものとの認定を抱かさせるに足る資料としては、不十分である。

又、被告は右裁定に於て、参加人の施業に対する所管官庁の監督により、将来参加人の施業が水源に影響を及ぼすような事態を生じたときは、許可の取消又は変更によつて、その危険を防止出来るから、本件許可によつて、水源破壊については何等の危険はないと述べているが、元来鉱業法第三十五条は、同条に牴触するか否かの判断は、出願に対し行政処分を為す時の状態に基いて決定すべきものであり、同法第五十三条に、事業の事情により、許可の取消又は変更処分の出来る規定あるが故に、行政処分当時、許可要件の具備しない場合に於ても、右許可を適法ならしめるものではない。

寧ろ、鉱業法第五十三条は、許可当時その許可の取消又は処分変更の必要が起る如きことを予想せずして許可したにも拘らず、予期に反し、取消又は処分変更の措置を講じなければならないような結果を生じた場合に取消又は変更をなし得ることを定めた旨の規定と解するを相当とする。

よつて、当裁判所は、以上の説示のとおり、被告が、原告主張の水源破壊の危険がなく、鉱業法第三十五条に規定する保健衛生上害があり、公共の福祉に反するものではないと認定した事実を立証するものとして、その裁定に於て挙示した資料は、右認定事実を立証する実質的な証拠としては、十分ではないものと考えるところ、その他被告が本件に於て提出する資料を加えて判断するも、到底該認定を維持するに足る十分な実質的証拠を具備するものと認め難い。

よつて、本件裁定は、右の点に於て、土地調整委員会設置法第五十四条第一号に該当すること明かであるから、原告の本訴請求は、その他の主張について判断する迄もなく、これを理由があるものと認め、本件裁定を取消すべきものとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 牛山要 野本泰)

(別紙図面省略)

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